乗代雄介「風景描写の練習 – 舎人公園」
ことばのランドスケープ
- FEATURE
- 2021.7.28 WED
小説家乗代雄介が日々ノートに書き続ける「風景描写の練習」。
淡々と書かれる、公園のある場所から眺めた20分程度の時間と風景。なぜ書くのか、何がおもしろいのか。書き手としての意味とそれを読む読者としての意味は、いったいどこで交わるのか。インタビューと合わせて読んでみてください。

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6月1日 13:20~13:39 舎人公園
大池の北の畔のベンチ、足元の一帯はラクウショウのうず巻くような気根が無数に顔を出し、水をとどめて雑草たちを養っている。
ゆるい傾斜の護岸ではカルガモやマガモが憩い、羽繕いに余念がない。その岸を南にたどれば、人がいくつも釣り竿を差しかけている。
足元の気根とつながっているラクウショウの梢に、オナガの群れがやって来た。頭にかぶった黒仮面は新緑にまぎれるが、空色の長い尾羽は、葉の隙間から飛び出している。カラスの仲間で声の評判は芳しくないが、控えめに鳴く分には、ギェーギェーも耳を鳴らす風にまぎれて悪くはない。その風は、こちらに向けて池全体にさざ波を立てている。水面に逆立ちで映った岸辺の木々は、その波で松ぼっくりのように横へ掠れ、ふいのもっと強い風で、あとかたもなく白い光のきらめきのなかに消えてしまう。その眩しさの中に残るのは、カイツブリの小さな小さな黒い影だけだ。それも見ていればすぐに沈む。なおも吹く強い風が、柳の綿毛を対岸に飛ばしていくのが目に入る。
背後には、ソリをすべらせる人工芝のゲレンデがある。平日の昼最中のこと、そこまで子供は多くないが、時折、それを貸切にしている子供の長い歓声が聞こえてくる。
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下部リンクのインタビューでは、「風景描写の練習」とは何かを乗代さんに伺いました。インタビューを読んでまたこのテキストを読むと違った景色が立ち上がってくるかもしれません。